夏の夕暮れが、嫌い。 刹那火 まだ仄かに熱を帯びたアスファルト。 蝉の音、生暖かい風、消え行く街並み、特有の匂い。 夏の夕暮れが嫌い。 過去に葬った思い出が蘇ってくるようで。 いずれ夏の終わりが来るのをただ待たされているだけのようで。 言葉では表現できない何かが。あの感覚が。 どうしても、好きになれない。 「怖いの。喜助さん・・・」 「どうしたんですか、さん?」 「怖い・・・の・・・」 花火だって、一瞬綺麗な花を咲かせたらすぐに散ってしまう。 この恋も、貴方も、そんな刹那なモノでは無いように。 「喜助さん、何処にも行ったりしないよね?」 「何言ってるんすかぁ? アタシは何処へも行きませんよ。」 「ほんと・・・だよね?」 「えぇ、ほんとです。」 大きな暖かい手で抱きしめられている時は、不安も少し和らぐ。 そんな喜助さんの手を、ずっと繋ぎとめておきたい。 「さんを置いて何処かへ行くなんて・・・ アタシにはできませんよ。」 どうか、このささやかな祈りを。 この恋も、貴方も、刹那なモノでは無いように。 花火のような、恋と貴方で無いように。 夏の夕暮れが、嫌い。 貴方が消えてしまいそうで、怖い。 |