雛森副隊長は、とても可愛いと思う。 自分勝手なジェラシー これは嫉妬なのだろうか。 私はさほど可愛くも無いし、何か取り得があるわけでもない。 ただ普通に霊術院に入り、普通に勉強をし、並の成績をとり、入院当初から平均の年数で また特に目立つ素行の無い、一般的な十番隊に配属された。 十番隊自身は、それほど優秀というわけでも、お荷物隊というわけでもなく、 私の凡人生活において、納得のいく普通の隊だった。 ただ、問題はこの隊の隊長さん。 異様なまでの背丈と、若すぎるであろうその年齢。 流れるようなシルバーブロンドに、ドキリとさせられるグリーンの瞳。 これは普通ですまされるモノではない。 初めて私の人生において、“普通ではない”モノが飛び込んできたから・・・。 私は彼に、興味を抱くようになっていた。 *** 日番谷隊長は、毎朝定刻通りに隊舎にやって来て、ざっと隊員の様子を見た後執務室へと入っていく。 たまに一緒に五番隊の雛森副隊長を連れてきたり。 そういう日は、私は決まってドジを踏むのだけれど。 休憩の時間には、いつも乱菊さんにお茶を入れてもらって和菓子をつまむ。 でもあんまり甘い物は好きじゃないみたい。 バレンタインはどうしようか。 週に2、3回は、雛森副隊長が遊びに来る。 他の隊員が同じ事をしてたら、お得意のしかめっ面で追い返すくせに。 雛森副隊長だったら許すんだね。 なんかずるい。 雛森副隊長が遊びに来ると、隊長はどんな時でも決まって笑顔になる。 ということは。 雛森副隊長は、いつでも隊長の笑顔が見れるってわけ。 すごくずるい。 「しろちゃぁん、 遊びに来たよ!!!」 あ ほら。 今日も来た。 一昨日だって来たくせに。 「最近頻度増えてねーか?」 とか言いながら、彼の眉間にシワの姿は何処にも無い。 なんかすごくムカツク。 「まぁ気にしない♪ 気にしない♪」 「サボってんじゃねーだろーな??」 楽しそうな会話。 温かく見守る目。 空気が一瞬にして和むのが分かる。 男隊員は皆鼻の下を伸ばしている。 女隊員は『憧れるわ』と言わんばかりの満面の笑み。 私が奈落に沈んでいるのを物ともせず微笑みあうー・・・。 そんな絶望の窮地に立たされた刹那。 ガシャン 陶器の割れる音が響いた。 足元で自分の湯呑が粉々に砕けている。 一気に、視線が自分に向けられるのを感じた。 急いでかたずけようと思い、机の下に潜り込むもまだ尚視線を感じた。 現実への拒絶感、どうしようも出来ない怒り、羞恥心が混ざり合い、指先が震える。 「痛っ―・・・」 チクリと指先に痛みが走った。 見ると真っ赤な鮮血が滲み出ている。 机の下から這い出ると、そこには隊長と雛森副隊長の姿しかなかった。 どうやら掃除機や塵取りを取りに行ったようだ。 「大丈夫か?」 その言葉が自分に発せられた物だと気付くまでに数秒の時を有した。 はじめて。 初めて。 隊長が私に声をかけてくれた。 その言葉の一文字一文字が、ズタズタになった心を癒してくれた。 「あっ・・・/// はい・・・」 ねェ隊長、私は今、どんな顔をしているんですか?? ちゃんと気持ちは届いてますか?? 雛森副隊長とは、どういう関係なんですか?? 私の事、どう思っていますか?? ふと気付くと、指先が温かかった。 隊長の口内に私の指先があって。 私の指先は隊長の口内にあって。 「えっ・・・ ちょっ 日番谷隊長??」 「こうしとけば治るだろ。」 あ ホントだ。 もう血が出てこないよ。 「たしか―・・・ だっけ?」 「あっ はい。」 「治療代、給料から差し引いとくから。 悪く思うなよ。」 彼に治されるなら、そんなのお安い御用。 数分、数秒の出来事なのに、何時間も経ったように感じられる。 「さん・・・だよね?? 今度から気をつけてねvv」 雛森副隊長のその言葉が、『もうこんな良い思いはさせないわよ』という意味合いに聞こえたのは―・・・ たぶん私だけだろう。 たぶんこれは、自分勝手な嫉妬心。 指先は まだ温かい。 |