なんだこの暑さは。

エルニーニョ現象? 日本語で言ってくれ。

無気力状態、脳みそが溶けそう。

ブランコを漕いで風を起こそうとするも、感じるのは生温かい熱風。

死んでしまうわ、なんて。ね。



「あーちー」


「おい、溶けてるぞ」



そう冬獅郎に指摘され、ふと手元を見ると、せっかく60円出して買ったガリガリ君から、大量の汗が噴出していた。



「うわっ!」



早く食べなきゃ、と口に含もうとしたその瞬間、ガリガリ君は一気に崩れ去り、

砂埃のたった地面の上で意識を失った。

も、切なさと暑さが入り交ざって意識を失ってしまいそうだった。



「どんまい、」



ぺロリ、とソーダ味のガリガリ君を口に頬張る冬獅郎。

それを羨ましそうに見つめるも、冬獅郎が一口くれるなんていうことは、

天地がひっくりかえってもありえないこと、とは定義しているので

願望を口にせずに、ただツバを飲みこんで我慢した。



「めずらしいな、お前が我慢するとか。」


「“下さいー”なんて言ったところで、どーせくれないんでしょ?」


「あたり」



そう言うが早いが、冬獅郎は大きな口を開けて、最後の一口を飲みこんだ。

もう午後の7時になろうかとしているのに、まだ日は沈もうとしない。

不思議だ、とは思う。

まるで時間が壊れてしまったみたいだ。

どうせ壊れるならこのまま止まってしまえ、そう願っても、叶わないのだからこの世の中は非情。



「おーい、生きてるかー?」


「たぶん。」



高校最後の夏が、どんどん過ぎてく。

学校帰りに制服で、コンビニでアイス買って、近くの公園のブランコで冬獅郎と二人でお喋りする。

当たり前だったことが、少しずつ想い出に変わってく。

あー なんとも言えぬ焦燥感と喪失感。



「おい!」



目の前には冬獅郎。



「はい?」


「はい? じゃねーよ! なーにボーっとしてんだよ。最高のアホ面だったぜ?」


「あ、アホ面って何よ! あんたはオールウェイズ馬鹿面してるくせに」


には負けるよ」


「いえいえ、冬獅郎の方が勝ってますから。」



お互い目を合わせてニヤリとする。

胸を締め付けるような幸せ。言葉で言い表せない愛しさ。



「アイスも食ったし、そろそろ帰るか?」


「あたしはほとんど地面に食われたけど、そろそろ帰る」



ひょい、とブランコから飛び降り、水色の塊にさよならを告げる。

雨で少し錆びついた自転車の後ろにまたがって、目の前の冬獅郎の腰をぎゅっと掴む。



「あれ、少し背伸びた?」


「ああ、俺はいつでも成長中だからな。」



一回り大きくなった背中に額をぶつける。

トクン、トクン、微かに聞こえる心臓の鼓動。



「おい、。」


「何?どしたの?」



顔を上げると、冬獅郎の耳が赤く染まっていた。

これは何かに恥ずかしがっている証拠。



「いや、あの、その... む、胸、当たってるから...」


「あ、もっとやって欲しい?」


「おい、お前な!!」



冬獅郎が顔を真っ赤にして、後ろを振り返ったのを見て、は声を上げて笑った。

この夏が終わらないように、この幸せが続くように、遠くに光る一番星に、目を瞑って、そっと祈った。