ジリジリジリと耳障りな音をたてて目覚まし時計が鳴った。

あぁ、また朝が来た。夢から覚めるのと同時にすぐ憂鬱な気分になる。

一生夢の中で暮らせたら、どんなに幸せだろう。

そんな事を考えている間にも、目覚まし時計は鳴り続ける。




「うるさいなぁ・・・」




バシンとボタンを叩いて、また布団に潜り込む。

寒い寒い、とにかく寒い。ここは北極か。絶対日本じゃない気がする。

もう一眠りしたくても、リミットぎりぎり。

ただ幸か不幸か、いつもならガミガミ怒鳴ってくる両親は旅行中。

娘は置いてきぼりですか、って感じだけどそれはそれでゆっくりできるから良いとしよう。

まったく。しょうがない、そろそろ起きようではないか。人類はいろんな困難を乗り越えてここまで来たんだもの。

これくらいでヘコタレてちゃあお終いだ。

あと10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・・

あともう10秒・・・ あと20秒・・・ あと1分・・・

誰がこんなルーズな子に育てたんだろう。 親だ、親が悪いんだ。

無理、とにかく無理。震度7の地震が起きてもここから離れたくない。

なんかもう寒いし眠いし。嫌な事がダブルでのしかかってるんだから、

意思が強いとは決して言えない自分が挫けない訳がない。

遅刻してもいーや、ともう一眠りしようと思った丁度その時、ブーブーと携帯のバイブが鳴った。

ピカピカと光るディスプレイに、冬獅郎と書かれた文字が浮かび上がる。




「もしもし・・・?」


『んあ、俺、だけど...

 か、勘違いするんじゃねェぞ!! 俺がお前と一緒に登校したい訳じゃなくて...

 ただお前が親が旅行中だからってまだ寝てんじゃねェかと思って心配してやってだな、その...』


「えあ、どした?」


『とりあえずお前の家の前に居っから、さっさと支度しろ!!』


「ねェ、ちょっ―・・・」




切れてる。

通話時間、20秒― 短い、さすが冬獅郎。

どうやら冬獅郎は家の前に居て、私が出てくるのを待っているらしい。

本人は否定しているが、決して朝型とは言えないを心配してこその行動だった。

すべての事態を把握すると、さっきまでが嘘のように布団から跳ね上がり、

制服に着替え顔を洗って、髪をとかして猛スピードで玄関のドアを開けた。




「おせェーよ」


「冬獅郎が突然すぎるんだって!!」




冬獅郎は聞こえないふりをして、ハァハァと息を切らすの手を自分の手に包んで歩き出した。

平然とした顔で隣を歩く冬獅郎の耳が真っ赤に染まっているのをは見逃さなかった。

やっぱ夢より現実の方がいいや。夢の世界にも冬獅郎が居てくれるなら別だけど。

久しぶりのドキドキする気持ちが、幸せの欠片になって白い吐息に消えていく。




「ねぇ、冬獅郎。」


「あぁ?」


「おはよう」




数秒の静寂からさよならするように、そっと唇を離す。

大好きだよ、そう囁いた愛の言葉も白い冬空に溶けていった。