私が授業中にやっていたことといえば、

教科書を見てる振りしては、チラリ。

それだけ。








どらまちっく。









まだ、時間はたっぷりある。

あの子にこの想いを伝えるのは、別に今じゃなくても大丈夫。

そんな余裕もっちゃうから、ほら。

今日何日よ? え? さん。

ジャカジャカジャーン。 卒業式当日でーす、いぇーい。

なんて無理矢理テンション上げてみても、ドクンドクンという鼓動の音で何も考えられなくなる。

今日しかないんだ、本当に。

もう涙を流している暇なんてない、ほら、このラブレター、出さなくちゃ。

いくつかの塊になって、まるで小島のように群がり合いながらワンワンと涙をこぼす友達を背に

高校生活唯一の思い出でもある、あの子の姿を探す。





「じゃあな、日番谷!! また会おーぜ!!」


「おう。」





そんな会話が聞こえてきたほうへと足を急がせる。

このさい、人の迷惑になっていようがかまわない。

今日しか、ないんだから。





「日番谷、君・・・」





声がかすれる。

まだ芽吹くはずもない桜並木の向こうへと、どんどんと彼の背中が小さくなっていく。





「日番谷君!!」





怒鳴った。

彼は立ち止まり、ちょこっと顔を後ろに向けた。





「あ、あ、の。」


「何?」


「えあああの、その、」


「何だよ、早く言えよ。」





早く言えたら、苦労しないわよ、

危うく口から出そうだった言葉を飲みこみ、ゆっくりと息を吸った。










「す、すき、だから、日番谷君のこと。」











風が生温い。

一瞬にして、何もかもが止まったような気がした。

彼がこっちに近付いてくる。

どうして良いかわからず、手の中のラブレターを強く握り締め、ぐしゃぐしゃにしてしまった。

あ、ラブレター、 なんて今ごろ気付く馬鹿な自分。





「ほら、やるよ。」


「は?」





そう手渡されたのは、女の子であれば誰でも欲しいと願う、制服の第2ボタン。





「え、あ、いいの?」


「・・・あぁ。」


「だって、日番谷君・・・ いろんな子から、その・・・ 頂戴って言われてたんじゃ・・・?」





そりゃあ、日番谷君の第2ボタンは欲しくて欲しくてたまらなかった。

だけど1年前から予約が殺到。

そんな中に、自分が名前を連ねたところでどうなるかなんて目に見えていた。





「・・・俺が誰にやるかなんて自由だろ?」


「そりゃ、そうだけど・・・でも」





















否定の言葉を呟いた瞬間、唇に何か温かいものが触れる。

こんなにもドラマチックなシーンなのに、目をつぶることも忘れて、ただただ今の状況に驚くばかりな私。





















「っ!! なっなっ!!」


「ありがたく貰っとけ。」





頬を赤く染めながら彼が言う。

視界が滲んだ。





「それって・・・?」


「もういいだろ!!」





耳まで赤くなった彼の姿はどんどん小さくなっていった。

私に背を向けながら、片手で軽く手を振っている。

渡し損ねたラブレターに涙が落ちてインクが滲み出す。

嬉しいのか悲しいのか、自分でもよく分からない。

馬鹿だなぁ、連絡先聞いておけばよかった。

















「ま、いっか。」






手元の第2ボタンを強くにぎりしめ、姿が見えなくなるまで手を振った。

いつかまた、会える日がくるかしら。