届かない、















空に救いを求めた。

かといって、救いの手を差し伸べてくれるわけでもなく

瞬きした瞬間に世界が変わるわけでもなかった。

ちょうど昼の盛りも過ぎてきて、重いランドセルを背負った小学生が

ふざけっこをしながら道路を歩く、そんな時間。




「なーにシケた顔してんだよ、」


「・・・冬獅郎・・・」




反応はしなかったが、心臓が口から出てしまうのではないかと思うくらい驚いた。

いつものように数学の授業を屋上で過ごそうと思ったのに。

先客が居たなんて予想外だ。それに...



「お前、授業はどーした?」


「冬獅郎だって。」


「まぁ俺は出来るし。お前と違って。」


「・・・そう、だね。」


「それとお前―・・・」


「何?」


「この間の事― ぜったい、絶対他の奴に言うんじゃねぇぞ!!」


「あぁ・・・はいはい、分かってるってば」




冬獅郎の顔が明らむ。自分の笑顔が少し歪む。

分かってるよ、分かってる。

貴方の好きな子は私じゃない。もっと可愛くて、もっと可憐で、私なんか比べ物にならないくらい。

冬獅郎がうっかり口を滑らせたのは3日前。

お互い相手の想い人を詮索してたら うっかりと、ね。




「早く告白しちゃえばいいのに。」


「そんなこと言ってもよ―・・・

 ってお前、人のこと言えんのかよ。お前も居るんだろ、好きな奴。」


「うん、居るよ、大好きな人。」




私の目の前に。




「誰だよ?教えろよ?」


「ん? 秘密」




ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、目に痛い程の青を見上げる。




「俺の知ってる奴か?」


「・・・うん、冬獅郎がよーく知ってる人、だよ」


「よく知ってる奴?誰だ?」




気付かれるのが怖くて。

気付かれないのが寂しくて。




「・・・雨、降ってきたみたいだね。」


「そうか? 雲なんか何処にもねぇぞ?」


「そう、かな。」




目から一粒の雫が落ちる。アスファルトにぶつかって、弾けて、消えて。

涙が悲しみを溶かすように溢れ出てくる。

痛みきった心と反応して、また新たな感情を芽生えさせていく。




「・・・?」


「なんでもない、よ。」




届かない、叶わない。自覚しすぎてしまった。




「そう・・・か?」


「・・・ごめん、授業戻らなきゃ。」





空はこんなにも近いのに。手を伸ばしても、いくらヒールの高い靴を履いても。

月だってほら、いつも傍に居てくれるのに。背伸びをしても、はしごに登っても。




「同じ、なんだね。」





あぁ、届かない。