ふがいない、や。 あの人の為にお茶を入れてみる。 入れたところで、どうせ渡すわけじゃないんだけど。 「松本、茶。」 やっと空になった湯のみ茶碗。 心拍数が上がる。 今度、こそ。 「ほら、行ってやりなさいよ。」 「えっあっ、無理ですよ。」 「だってあんた・・・ 今日で何回お茶入れてるのよ。」 そう言われれば。 ひっきりなしに沸かしては、結局自分の体内に吸収させていたような。 「・・・7回、くらいですかね。」 「はぁ・・・・、 早く渡してきなさいよ。 馬鹿らしいでしょ。」 そんな乱菊さんの、溜息まじりな意見はごもっともで。 そんなこと、分かってはいるけど。 「無理ですってばぁ!!!!」 渡すところを想像しただけで、自分の顔が赤くなるのを感じる。 「松本!!!!! はやくしろ!!!!!!!」 隊長の大声で、ビクンと体が跳ね上がった。 それと同時に、乱菊さんに給湯室から追い出される。 「わぁっ」 「っあっつ・・・・」 追い出された弾みで、お茶がこぼれて手にかかった。 「おい、大丈夫か?」 「あ、大丈夫です。って・・・わっ」 顔を上げれば目の前には愛しき隊長が。 しかもこんな至近距離。 体温がいっきに3度上昇する。 「そうか、気をつけろよ・・・・・って・・・・・・」 冬獅郎が見た先に、の姿は見当たらなかった。 なんていう瞬間技。 世界中のマジシャンもびっくりだ。 「・・・・つか、結局・・・・茶は・・・・・」 今の子は何だったのだろうかと、軽く首をかしげてみる。 なんだか、不思議な奴だった。 ・・・・ちょっと可愛かったけど。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」 は急いで給湯室に駆け込んだ。 あんな距離で・・・・・ 考えれば考えるほど恥ずかしくなってくる。 「・・・まーた渡せなかったの?」 「えっ? あ・・・・」 ふと手元を見れば、ユラユラと波のたつ緑の液体が湯のみの中に。 また渡せなかった、みたい。 次、こそは。 渡しそこねたお茶をすすりながら、本日7回目の決心をする。 「馬鹿だなぁ、私・・・」 こんなんじゃ、いつまで経っても気付いてもらえない。 そんなこと、分かってはいるけど。 ふがいない、や。 いや。 |