「もう一度聞かせて?」
「いいだろ、もう・・・」


「もう一度だけ」
「ったく・・・ なんなんだよお前は・・・」










もう一度










いつもお転婆なの事を心配してる。
お転婆なくせに結構どじでよくこけたり・・・
そのくせ、いざとなるとちゃんと指令を果たす。




いつも元気なが・・・ 心配な事もある。
落ち込んでるくせに・・・ 強がってるからだ・・・




「お前、またなんかやっただろ?」
「どういう意味よぉ・・・」




さっき総隊長から呼ばれて戻って来た
が総隊長に呼ばれる時は
たいていが何かやらかした時。




たまには、総隊長から直々に指令を受ける事もある。
俺はそれが嫌いだ・・・




特別隊の隊長って事で
総隊長から直の指令を受けるって事は
は俺にその指令の内容を言えない。




って事は・・・ たいてい危険を伴う事が多いから・・・
だから・・・ 俺は心配してしまう・・・




「今回はなんで呼ばれたんだよ?」
「・・・・・」


「何やったんだよ?」
「何もしてないよ・・・?」




に無理矢理つき合わされてるこの散歩。
仕事に嫌気がさすとはいつも俺を巻き添えにして
こうして散歩に出たり、遊びに行ったりする。




「何もしてないなら・・・ あ・・・ お前・・・」
「うん・・・」


「指令なんだな?」
「うん・・・」


「いつ?」
「今日の夜からだって」


「いつ戻って来んだよ・・・?」
「・・・・・」


「いつ戻って来んだって聞いてんだよ」
「不明って奴・・・?」




不明・・・? どういう事だよ・・・




「現世での指令・・・」
「現世・・・?」


「うん・・・ それ以上は言えない・・・」
「そっか・・・」




危険な指令って事だな・・・
帰ってくるのもいつになるか不明・・・
って事は、それだけ危険って事なんだろうな・・・




お前の癖だもんな・・・
危険が高いほどお前は帰る予定を誤魔化す。
お前が不明って言ってるって事は・・・




「なんかあったら呼べよ、俺を」




が俺を呼ぶ事はない、出来ないと分かっていながら
俺にはそれしか言ってやる事が出来ない・・・
でも、それは俺の本音だから・・・




何かあったら・・・ 俺を呼んで欲しい・・・
そうすれば、俺はすぐにお前の元に行くって・・・
それが・・・ 俺の本音だから・・・




「うん・・・」




いつもは何があっても冗談言って強がってるのに・・・
今のにはそれがない事に気が付いた。




「おい」




の腕を掴んで歩いていたを引き止めた。




「帰って来いよ?」
「冬獅郎・・・?」


「帰って来いって言ってんだよ」
「どうしたの、急に?」


「帰って来たらお前に言いたい事があるんだよ・・・」
「今言えば・・・?」


「言わねぇよ、言ったら帰って来る理由がなくなるだろ?」
「なにそれ・・・ ?」




あの日の夜、が現世に出てからもう随分たった。
連絡さえ取れない状態で・・・
の無事を知るには情報網張りまくりの
松本を通じてからしか確認できなかった・・・




ある日、天気が良くて雲一つない空に気が付いた。
が大好きな空だ・・・ どこまでも青くて・・・
そんな事を思いながらゆっくりと廊下を歩きながら
隊長格会議の後で自分の勤務室へ戻ると・・・




俺の席に誰かが座っている・・・?
おまけに・・・ 机に伏せて寝てるのか・・・?




部屋の中には誰もいない。
ゆっくりと近くに歩いて行くと・・・ 
隊長衣がはっきり見えた・・・




俺の心臓がドキドキする。
したくもない期待で胸が高鳴っていく・・・




隊長衣には特別隊の特が印されていた・・・
だ・・・ が戻って来た・・・




傍に行き、の顔から髪の毛をのけてやると
長かった髪の毛が短くなっている事に気が付いた・・・




「なんだ・・・ 髪の毛切っちまったのか・・・?」




風に揺れるの長い髪の毛を見るのが好きだった・・・
でも、今はそんな事はどうでも良かった・・・
が戻って来た・・・ それだけで充分だった・・・




「お帰り・・・ 待ってたんだぞ・・・」




俺は自分の机の上に座り、寝ているを眺めた。
ちょっとやそっとじゃ起きそうにないほど良く寝てる・・・




きっと疲れが溜まっているんだろうと・・・
どんな危険な指令を果たして来たのかは知らない・・・
でも・・・ は俺の元に戻って来てくれた・・・




「ずっと待ってたんだ・・・ お前の事好きだから・・・」




そう呟く俺に・・・




「ホント?」




なんで答えが返ってくるんだっ?!




っ?!」
「ただいま」


「なんだよ、寝てんじゃなかったのかっ?!」
「寝てたよ、冬獅郎が一人ごと言うまでは」




まずい・・・ 聞かれる準備は出来ていなかった・・・
が戻って来たら言いたい事だったとはいえ・・・
お前寝てたじゃないかっ




「それが・・・ 冬獅郎が言いたかった事?」
「なっ・・・ なっ・・・」


「どもってないで・・・ 答えてよ」
「そ・・・ そうだよっ 文句あんのかっ?」


「ないけど・・・ もう一度聞かせて?」
「聞いてたんだろっ ちゃんと」




は机に伏せていた体勢から起き上がり俺を見た。




「もう一度聞かせて?」
「いいだろ、もう・・・」


「もう一度だけ」
「ったく・・・ なんなんだよお前は・・・」


「もう一度ちゃんと聞かせて?」
「お前が・・・ 好きなんだよ・・・」




は俺に微笑んで、俺の手を取ると
そのまままた机に伏せて目を瞑った・・・




「なんだよ、また寝るのか、人の机で?」
「だって、冬獅郎の机だから・・・」


「どんな理由なんだ、それ・・・」
「冬獅郎が好きだって理由・・・」




え・・・?




「お前、今なんて言った・・・?」
「なんでもない」




が悪戯気に笑った・・・




「なんだよ、もう一度聞かせろよ」




は目を開けて俺を見上げて微笑んだ。
自分の手に取った俺の手に指を絡めて・・・




「大好きだよ・・・ 冬獅郎・・・」




その言葉をもっと聞きたい、何度でも聞きたい・・・
俺の元に戻って来てくれたから・・・




「もう一度・・・ 聞かせろよ・・・」










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