買おうか買うまいか。 まだ月始めだというのに、今月のお小遣いが底をついた。 さぁ、これを買ったら後がきついぞ。 そんな事、分かってはいるけれど。 この寒さには耐えられない。 ホットのコーンポタージュ缶のボタンを...押した。 Winterer ロンリー下校じゃないよ、このコーンポタージュ君がいるから。 さぁいざ下校だ。 そうクルリと自動販売機に背を向ければ、沈み行く夕焼けに映えるオレンジ頭が。 「お、先輩じゃん。」 「お、後輩じゃん。」 やっぱりお互い暇人ね。 がそう言いたげな表情をしてみたのに対して、一護も同じ表情を見せた。 家は近所、さぁどうする? そう聞かれたら、左手にコンポタ君を、空いた右手に一護の冷たい手を握って家路を辿る。 「なっ、」 「先輩、寒いでしょ?」 「・・・いいかげん先輩はヤメロよ」 カシミアのチェックのマフラーを、隣の肩にそっと巻く。 躊躇しながらも、ちょっと顔を赤らめただけで、全く抵抗の色を見せない一護への気持ちは 初めて会った時から今まで、何一つ変わってない。 こうして肩を並べ、同じマフラーを巻きながら歩いていてもドクンドクンと心臓が強く脈を打つ。 「おい、大丈夫か?」 「え、何が?」 「いや、お前がこんなに静かなのも珍しいなと思って。頭打ったか?」 「それ、本気で言ってるの?」 こっちがこんなにも胸を高鳴らせているというのに。 男ってなんて無神経というかなんというか。 20センチ以上は高いであろう隣のオレンジ頭を、ものすごい剣幕で睨みつける。 「お前、それ、ガンとばしてるつもり?」 「そうですが、何か?」 「え、てか、俺の方が見下してるんだけど? あれ、なんか違くねーか?」 「っ・・・!! うるしゃいうるしゃい、女の子は小さい方が可愛いもん。」 「え、お前が?」 「なっ、ななななななななっ!!!! そーゆー君っわったぁー」 何だ何だ、今の語尾。アクション映画の台詞みたい。 なーんて呑気な事を言っている場合ではなく、 コンポタ君を左手に、一護の手を右手に。 この状態のまま、アスファルトの段差につまずいて転んだ。 当然顔からダイビングする形になる訳で。 おまけに飲みかけのコンポタ君は噴出する訳で。 かといって一護もつられて転ぶわけでもなく、 「いたたたたたた」 「おい、大丈夫か?」 「んーダメかも。」 まったく、なんて格好悪いんだ。 でもこれ、本当に半端なく痛い。タンスに小指をぶつけたのと同じくらい痛い。 これが友達の前なら、躊躇うことなく泣き出す所だろう。 「ほら、立てるか?」 「んっ、いたっ・・・・」 暗闇の中でも、膝から血が滲み出ているのが見えた。 と、次の瞬間、体がフワリと宙に浮かぶ。 「え、あ、黒崎さーん?」 「俺の家、行くから。」 こうも軽々とお姫様だっこをされて。 ギュっと一護の広い胸に押し付けられていると、これが夢なのかとさえ疑いたくなってくる。 一護の制服から、温かいお日様の匂いが漂う。 「寝てもいい?」 「おろすぞ?」 そう言われたのなら仕方が無い、起きていよう。 決心したにもかかわらず、最後に見たのは姿を消す太陽の姿で、気がついたら見なれた家の前に立っていた。 「寝やがったな」 「なんのことだか?」 「・・・ほら、見してみ?」 黒崎医院のベッドの上に座らされ、言われたとおり怪我をした部分を見せる。 一護は馴れた手つきで消毒をし、大きな絆創膏を貼り、その上からグルグルと包帯を巻いた。 「一応応急処置だけしといた」 「うわ、流石医者の息子。」 「こんなんお前以外の世界中の誰でも出来っから。」 「うっわ、うっわ、うっわわわ 言ったな、このやろっ」 「事実だ、事実。 ってことで、はい、治療代。」 一護はに掌を差し出す。 「料金とるの?」 「あたりまえ」 「けち」 「何とでも言え」 「いくら?」 「500円」 冗談だとは分かりつつも、一応財布の中身を確認する。 さっきのコンポタ君を買ったおかげで、1,2,3... 残金35円。 この金額で何が買えるだろう。5円チョコが7枚? いや、それにしたって消費税がかからないように1つ1つ買っていかなければならないぞ。 てゆーか、肝心のコンポタ君、道に忘れてきちゃったよ。 ごめんね、成仏してください。 「やばー 残金35円ですよ、一護君。」 「お前・・・ 小学生かよ。 払えないんなら、体でもなんでも払ってもらうよ?」 「はァ? なんでそんなに執念深いってゆうか、なんてゆうか・・・」 「金はいらねぇけどよ、若い男女がベッドの上で二人っきり。さぁどうする?」 「冗談は終わり、はい、ありがとうございました。 ということで、私はこれで。」 ベットから降りようとすると、急に一護が立ち上がりを押し倒す。 「おい、帰さねぇぞ?」 「なんでよ?」 「一応俺も健全な男子高校生だし。まぁ発情するのは普通だろ。」 ギュウっと上から圧力をかけられ、息がかかる程近い。 ほのぼのとした雰囲気から逸脱した環境はが最も苦手とする場面であり、 普段それほど自分に感心を示してくれない一護がこれ程にも積極的なのにただ驚いた。 「えあ、でもお父さんとか居るでしょ? ね、やめよ」 「大丈夫、急患がどうちゃらとかで、今夜は帰ってこないし。 夏梨たちは友達の家に泊まりに行ってる。」 「うぅ、バッドタイミング・・・」 「グッドタイミングだろ? 誰にも邪魔されねぇし。」 「ちょっ、きゃっ」 「治療代も込みだからな、今日は容赦しないぜ?」 嘆きながらも目を瞑って体をゆだねてしまえば、後は狂おしいまでの快感の波が押し寄せる。 明日はきっと、寒さに加えて腰も痛むんだろうな、 頭を白い閃光が走ったとき、即座に悟って心の中で溜息をついた。 |