その雫は、ただ苦いだけ。 アイスは溶けて、ただまずいだけ。 人魚姫の涙 よく少女漫画において、とくに繊細に描かれる、主人公が彼の事を好きという事を、 はじめて自分で意識するシーン。 大抵は「もしかして・・・? 私、○○のこと・・・・?」みたいな感じだけど、 所詮ただの少女漫画で、それは作者の勝手な妄想に過ぎないんだから。 そんな事、実際にあるわけないし。 そんな事、この私にあるわけないし。 「くーろーさーきくーん!!!!!」 遠くで織姫の声がする。 あんな奴、オレンジ頭で、キザで、馬鹿で、どーしようもないやつなのに。 なんで視線が自然と動いちゃうんだろ。 「あ、そっか。じゃあな、井上」 そう織姫に別れを告げた黒崎一護の姿を、焦点をぴったりと合わせて目玉が追いかける。 急にチラリと後ろを振り返ったりなんかするから、目があっちゃったじゃないか、バカヤロー。 ドクンと一度、心臓が強く脈を打ったのは、きっと気のせい。 そんな彼にも、最近気になる子ができたらしい。 同じクラスの子で、明るくて、自分の事を理解してくれるんだって。 私って、他人から見たらどう映るんだろ。 まぁ明るいって言ったら明るいし。でも黒崎の事、理解してる気なんて毛頭無い。 メールで相談事・・・って言っても、いつもくだらない事ばっかりだけど、 まぁ話聞いてあげるくらい、はしてあげてる。 「おい、!!!」 「ん?」 不意打ちをくらった。 あれ、さっき教室から出ていっただろ、お前。 心臓がこれまでにないほど脈を打った。 この音が聞こえたらどうしよう、なんて、ちょっと乙女な事を考えてる自分が居たり。 「啓吾がよ、お前のメアド、知りたいんだとさ。」 「はぁ、」 「教えてやってくんない?」 「別に、いいけど・・・」 あの緊張も何処へやら、どんどん膨らんでた風船の空気が一気に抜け始める。 何を期待してたのかは、自分にも良く分からないけど。 その後のことは、あんまりよく覚えてなくて。 喜んでる浅野の顔と、それを眺めてる黒崎の顔と。 お風呂に入ってるときも、夕ご飯食べてるときも、ベッドに入った時だって、黒崎の顔が頭から離れない。 「もしかして・・・・」 頭の中から毀れた黒崎の顔が、ベットの中に溢れていく。 考える度に、キュンと胸が苦しくなって、痛みで涙が頬を伝う。 もしかして・・・? 私、黒崎のこと・・・・? |